【報告】「京都から世界へ:JOHNAN株式会社が挑む、心音デバイスの革新」を開催しました

6月26日(月)、経営管理大学院の経営戦略論(担当教員:牧野成史 教授)講義においてJOHNAN株式会社(以下、JOHNAN)を題材としたケースディスカッションが行われました。講義には山本光世社長も登壇し、参加学生との活発な質疑が行われました。

今回のコースマテリアルであるJOHNANのケースは、牧野成史ゼミおよび山田仁一郎ゼミ所属の学生によるJOHNAN山本社長や同社幹部、関係者へのインタビューをもとに作成されました。

ケースの概要
JOHNAN株式会社は、電子部品の開発から製造までワンストップで請け負う企業である。4代目社長の山本光世氏は、アメリカ留学やコンサルティング会社での経験を経て、同社社長に就任し、会社の価値観や理念を「かこむ・みる・つくる」という言葉に表現しました。また、新たな事業領域として医療機器分野に参入し、心音デバイスの開発に挑戦することになりました。

JOHNANの起源
JOHNANは、高級衣料店を経営していた山本松雄氏が、1949年に京都で創業した家内工業から始まります。松下電子工業株式会社から真空管不良の解決の相談を受けて成功させたことがきっかけで、トランジスタ加工生産を創業しました。その後、家電の加工組立事業を中心に、松下電子との取引量・事業領域を拡大させていきました。高品質で安全性の高いJOHNANの技術力は松下電子に評価され、下請け会社として信頼される存在になりました。

山本社長の生い立ち
現在の4代目社長である山本光世氏は、クリスチャン家庭で育ちました。幼少期から会社経営の話を聞かされていた光世氏は、同志社大学神学部に入学し、在学中にマックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に出会って衝撃を受け、アメリカ留学を決意しました。帰国後コンサルティング会社に就職した光世氏は、死に物狂いで働きながら経営やマネジメントのスキルを身につけました。その後、JOHNAN社に入社してみると人材育成や戦略的な方針がなく、「この会社は遠くないうちに絶対つぶれる」と思った光世氏は、米国でMBAを取得した後、JOHNANに戻り4代目代表に就きました。山本氏はリーマンショックやコロナ禍などの難局を「この世は準備段階で あの世は本番」という独自の死生観のもと、大胆な経営判断で乗り切ってきました。その後、会社の価値観や理念を言語化し、絵本「かこむ・みる・つくる」にまとめました。

JOHNANの事業
JOHNANはメカトロニクスの分野を中心に、プラットフォームサービス、エンジニアリングサービス、製造サービス、および修理メンテナンスサービスを提供しています。対象とする産業分野は、半導体・通信機器・自動車・産業機器・船舶・医療など多岐にわたります。特に半導体分野では、国内外の大手メーカーと取引し、高いシェアを誇っています。また、エンジニアリングサービスでは、お客様のニーズに応えるオーダーメイドの開発を行っています。製造サービスでは、高品質で低コストな製品を提供するために、国内外に工場を展開しています。

医療機器分野での心音デバイス開発
JOHNANは2018年から医療機器分野に参入しました。これは、社長の山本光世氏が祖父の病気や自身の健康不安をきっかけに、「人々の健康と幸せに貢献したい」という思いから始まりました。医療機器分野では、血圧計や体温計などの一般的な製品から、人工呼吸器や人工心肺装置などの高度な製品まで幅広く手がけています。医療機器分野は全体の売上の5-6%にまで成長し、今後JOHNANの主力事業になると期待されています。そんな中、大阪大学医学部から心音デバイスの開発依頼が舞い込んできました。心音デバイスとは、心臓や血管の音を聞いて診断するための装置です。現在市場に出回っている心音デバイスは、音質が悪くて聞き取りづらいという問題があります。大阪大学医学部では、音質が高くて聞き取りやすい心音デバイスを開発したいと考えています。しかし、そのためには高度な電子技術が必要であり、自分たちだけでは難しいと判断しました。そこで、電子技術に強いJOHNANに開発依頼をしたのです。JOHNANはこの依頼を受けるべきでしょうか?それとも断るべきでしょうか?

当日は、このケースを事前に読んで来ていた受講生に対し、牧野教授から以下の質問が投げかけられました。

(1) JOHNAN はどんな会社か:何をしている会社か、どのように事業を拡大してきたか、会社の企業理念は何か、競合他社と比べてどのような強みを持つか。
(2) 山本社長の死生観を説明せよ。またその死生観は会社経営にどのような影響を与えていると考えられるか。
(3) 心音デバイスとはどのような製品か。心音デバイスの市場環境や競合を説明せよ。
(4) 心音デバイスの開発でJOHNAN が得られる機会とリスクを述べよ。
(5) 山本社長は心音デバイスの開発に進むべきか。それは何故か。

その中でも、特に質問(4)、(5)では学生の間で意見が分かれ、競合分析、事業リスク、医療分野の難しさ、など多様な視点から意見が出されました。「なぜJOHNAN社は不確実性の高い心音デバイス開発に取り組もうとするのか」、その疑問は直接、山本社長に向けられました。

山本社長からは、JOHNAN VISION 2050で示された「一人ひとりの希望を実装してまわる」というビジョンと合致していたことや、オープンイノベーションによる開発リスク、事業リスクの低減しうること、そしてそれらを勘案して心音デバイスの開発を開始したことが語られました。様々なリスクを乗り越えて下された山本社長の大胆な意思決定には、参加者から感嘆と賞賛の声が上がり、学生と山本氏のディスカッションは講義終了後も続きました。

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