【イベント報告】「Appleは実はローテクだった?新たな経営理論の探索」を開催しました

6月30日(金)に小田部正明氏(早稲田大学/ハワイ大学 教授)をお招きし、経営学セミナー「APPLE – The Great Innovator of iPod, iPhone, and iPad – was “Low-Tech”: In Search of a New Theory」を開催しました。小田部氏は、国際マーケティングやグローバルソーシング戦略の権威であり、世界各地で講演や国際機関のアドバイザーを務めています。

講演では、AppleとSonyという2つのテック企業の経営戦略を比較し、イノベーティブな製品開発の要因について議論されました。Appleは1980年代から1990年代にかけて、Macを中心とした一部のコアなファン向けのICTメーカーとして位置づけられていたが、2000年代に入ると、iPod、iPhone、iPadなどの革新的な製品を次々と開発し、音楽、通信、タブレットなどの市場を席巻しました。このようなイノベーションはどのようにして起こったのか?Appleはどのような競争戦略を採用し、どのような組織能力を発揮したのでしょうか?

講演の中で小田部氏は、特許保有数、R&D支出、新製品開発、特許訴訟という4つの指標を用いて両社を比較分析しました。SONYは継続して全米で10位前後の特許保有企業ですが、2010年段階でのAppleの特許保有数はTOP50にも入っていませんでした。また、今でこそ多額の研究開発投資を行うAppleですが、創業者のスティーブ・ジョブスがCEOを退く2013年まではR&D支出はSONYよりも低く特許保有ランキング数は現在でも同程度にとどまっています。

Appleは2000年代に入ると、iPod、iPhone、iPadなどの革新的な製品やサービスを次々と開発し、市場をリードしました。一方、Sonyはウォークマンやプレイステーションなどのヒット商品を持っていたものの、2000年代以降はAppleに追随する立場になり、その主力商品はゲーム機やスマートフォンのイメージセンサーへと変化しました。Appleもスティーブ・ジョブスが退任した2010年代以降、革新的と呼べる製品は生み出されておらず、”いかなるカテゴリでもイノベーティブではない”と評されるようになっています。

これらの分析から、小田部氏はイノベーティブだった当時のAppleの競争優位の源泉について考察しました。小田部氏は、Appleは自社開発だけでなく、他社技術のライセンスや買収、パートナーシップなどを活用して技術を迅速に取り込み、大量生産と大量販売を実現したと指摘しました。それらは、先進的な技術の”偶然の剽窃”や、特許訴訟も追い付かないほどの開発スピードによって可能になっていたことが、特許訴訟のデータから示唆されています。これらはAppleのダイナミック・ケイパビリティ(環境変化に応じて組織能力を変化させる能力)の表れであり、従来の競争優位論だけでは説明できないものであると小田部氏は指摘しました。

Appleはあまり高い技術をもたなかったにもかかわらず革新的な製品開発のリーダーに変貌しました。その背景には、ダイナミック・ケイパビリティがあったと考えられます。このような能力を持つ企業は、今後も市場で成功し続けることができるでしょうか?それとも、新たな競争者に追い越されることになるでしょうか?この問いに答えるためには、新しい理論が必要です。小田部氏は、そのような理論を構築するためのヒントを提示し、参加した学生との間で活発な議論が交わされました。

↓こちらもあわせてご覧下さい↓
https://www.gsm.kyoto-u.ac.jp/event_report/52374/ 

目次